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ソーシャル電通人 #005(前篇)

ソーシャル電通人 #006 籠島康治 電通ソーシャル・デザイン・エンジン クリエーティブ・ディレクター コマーシャルで解決できない問題もソーシャルなら解決できるかもしれない

東北に暮らす人びとの小さな「声」を届ける展覧会「メッセージ3.11」をつづける小野寺理一郎さんに、活動をスタートしたきっかけや今後の展望、震災の記憶の「風化」について聞きました。

――ソーシャル系で最初の作品は?

ソーシャル系の最初の仕事は「藤原紀香写真展」のポスターでした。2001年9月に同時多発テロがあって、10月にアメリカ軍がアフガニスタンに侵攻して、12月に暫定政権ができたのですが、そのようなタイミングで藤原さんが自分の目で現地を見たいと取材に出掛けました。翌年に展覧会を開催することになって、そのポスターをつくらせていただきました。コピーをどうしようかといろいろ考えたのですが、藤原さんの言葉をそのまま使うのがいいんじゃないかと思って、コピーは書かなかった。自分の仕事でコピーを書かなかったのは初めてのことでした。

僕にとってすごく勉強になったのが、2025PROJECTで制作した本、宮﨑あおい・将兄妹の『たりないピース』(2005年)と『たりないピース2』(2007年)です。『たりないピース』はシャプラニールというNGOとの仕事で、インドのコルカタのスラムで見聞きした貧困がテーマでした。シャプラニールの方やインドのNGOの方から活動内容やその背景をうかがって「目から鱗が落ちまくる」というか、経済が発展すればしあわせになれるかっていうとぜんぜんそんな単純な話じゃないんだなとか、しあわせの尺度って人それぞれなんだなとか、いろんなことを考えさせられました。

『たりないピース2』ではグリーンランドに行って、グリーンコンサルタントの方に気候変動についていろいろ教えていただきました。特に印象的だったのは、太陽光や風力など、温暖化問題の解決策は実はもう出揃っていて、あとは私たちにそれをやる意思があるかどうかだけなんだ、というお話でした。各国の制度の話も含め、たくさん勉強させていただいた仕事でしたね。

2025PROJECT名義の仕事は他にもいくつかあります。川嶋あいさんってご存知ですか?彼女は開発途上国の子どもたちのための活動を続けているシンガーソングライターです。クリック募金サイトのキャンペーンに参加していただいて、みんながクリック募金に参加することによって開発途上国に学校をプレゼントする、というものでした。チャリティーソングのプロモーションビデオもつくらせていただきました。

また、ミスキャンパスたちがつくった社会貢献団体SweetSmileから相談を受けて書籍をつくりました。学生である彼女たちに「まずはNPOについて学びましょう」と提案して、『世界を変える仕事44』(2010年)をつくりました。

本業のほうでも、環境省の生物多様性のスローガンやマークを制作させていただいたご縁で、2010年に生物多様性の国際会議COP10が名古屋で開催されたときに、そのマークやスローガンを制作させていただいたり、同時期に日経新聞のシリーズを展開したり、COP10で生き物応援団のお一人だった滝川クリステルさんの書籍『生き物たちへのラブレター〜生物多様性の星に生まれて』の制作もお手伝いしました。

――電通がTFTを導入した際にはポスターを制作しました。

電通にTFT(TABLE FOR TWO)プログラムを導入しようという話があって、僕にしてはめずらしく、「企画書を書かせてもらいます」って自分から手を挙げました。非常にめずらしいパターンなんですけど(笑)。

2006年にムハマド・ユヌスさんがノーベル平和賞を受賞されたり、2007年くらいだったと思うのですがルーム・トゥ・リードのジョン・ウッドさんの本が話題になったりしていて「社会企業家ってかっこいいよね」みたいに思っていました。やっぱり寄付だけじゃ世の中変わらないよな、ビジネスの手法をうまく使わなきゃ、みたいに思っていて。そういうなかで、TFTの小暮さんの著書(『20円で世界をつなぐ仕事』)に出会い、講演を聞いたりして、日本にもかっこいい社会企業家の人がいるんだなって思ってたんです。社会企業家って、ボランティアではなくて、ビジネスとして収益を上げつつ、みんながハッピーになる仕組みをつくっていくところがすごくかっこいい。ぜひ応援したいと思ってたんですね。企画書を書いたついでに、社内向けのクリエーティブも制作することになり、その後もiPhoneアプリをつくるなど継続的に関わらせていただいています。

ふだん僕は、並行してたくさんの仕事を抱えて、あっちをやって、こっちをやってという感じですから、じっくり考えて「こういうプロジェクトを立ち上げねばならぬ」ということにはなりにくくて。来た仕事に対して、できるだけ誠実に返していこうというのが僕の基本スタンスなんです。でもあのときは、「ぜひやりたい」と(笑)。

「コマーシャル対ソーシャル」という図式が分かりやすいと思うんですけど、コマーシャルのほうをちょうど10年ぐらいやったところで、2002年くらいからソーシャルに足を突っ込み始めて。いつも新しいことを学び続けて飽きずにやってこれました。

貧困とか、環境問題とか、震災からの復興とか、地域活性化とか、簡単には解決できない問題がたくさんあります。そういう問題はコマーシャルの手法だけではなかなか解決できなかったりするけれども、ソーシャルの手法と組み合わせれば解決できるかもしれない。

コマーシャルな経済活動を力強く(笑)、推進している電通のような会社から見ている世界と、ソーシャルというかNPO(Non Profit Organisation、非営利団体)から見ている世界、どちらもほんとの世界として存在している。最近は融合が進んできていて、両方の世界がうまくつながると、お金も適度に流れつつ、持続的に動いていけるのではないか。理想論かもしれませんが、そう思っています。

――電通のエントランスでの世界食料デーのイベントは楽しい企画でしたね。

TFTでは、10月16日の国連世界食料デーに合わせて毎年イベントをやっているのですが、電通の社会貢献部では2010年以降そのサポートをしています。今年は、Good Entranceと絡めてやったらどうかという話があったので、「食問題に関係するNPOをたくさん知ってるので、一緒にやりませんか」と提案しました。「たくさん知ってる」っていうのはちょっと言い過ぎだったんですけど(笑)。

2025PROJECTや「世界を変える仕事44」でお世話になっていたNGO、ハンガーフリーワールド(HFW)の方に相談したところ、運のいいことにHFWは世界の食問題に関わる複数のNGOのとりまとめというか事務局をやられていて、「ぜひやりましょう」ということになりました。これまでのNGO/NPOと電通の関係でいうと、個別のお付き合いはありましたが、10以上の団体がまとまって参加するのは初めてだと、あとで聞きました。

僕と一緒にTFTを担当していただいている植村CDに相談したところ、「うちの若手でチームをつくってぶつけるのがいいんじゃないか」という話になりました。「みんな乗ってきてくれるかな」「声を掛けたけど、だれも手を挙げなかったっていうのは怖いな」と思いましたが……。

まずソーシャル・デザイン・エンジンのメンバー、そして個人的にNGO/NPOに関わっている社内の人たちに個別にお願いをしたところ、いろいろご紹介をいただいたりもして、最終的には必要十分な人数が集まりました。この場をお借りして御礼申し上げます。電通のチームは、社会貢献部も含め36、37人だったと思います。コピーライターとアートディレクター、それに戦略プランナーを基本ユニットとしてNGO/NPOごとに担当チームをつくりました。

制作に関しては、個々のスタッフが直接NGO/NPOの人たちとやり取りするのがいいと思っていましたから、NGO/NPOの方々に「担当者から連絡がいくのでよろしくお願いします」とメールを入れて、あとは個別に交渉してやってください、と。

クリエーターが直接クライアントさんに連絡をとるというのは普段の仕事ではあんまりないんですけど、NGO/NPOの人たちと直接やり取りすることは勉強になりますから、非常に良かったと思っています。いろいろ戸惑いや失敗もあったと思いますが、それも貴重な財産。話を聞いてみると、「(物販の商品について)あれが1,000円っていうけど、とても売れるとは思えない」とか、最初はものすごいカルチャーギャップがあったようなのですが、エントランスで売ってみたらほんとに売れたりして(笑)。

問題解決に向かって知恵を絞るという意味では、NGO/NPOも電通も、やっていることは非常に近いかもしれない。今回の企画に参加してくれたのは若手の優秀な人たちばかりで、(社会貢献部の人も含め)みんなほとんど徹夜に近い状況だったんじゃないかと思います。社内の評価にはそれほどつながらないし売上にもならないけど、みんなが楽しんでくれて、新しい何かが生れればいい。今回はそれぞれの団体のポスターをつくりました。NGO/NPOの方々から、「多くの人の目を意識したコミュニケーションが必要だと思いながらもできてなかった。そういう機会がいただけて非常に良かった」といっていただいたのですが、それが電通のメンバーにもすごく大きなモチベーションになったと思います。ふだんのコマーシャルの世界とはぜんぜん違う、お金じゃないところで動いてる人たちからそういうふうに思ってもらえる。それがパワーになって、すごく頑張ることができたんじゃないかと思います。

僕自身のなかにも、2002年以来ずっとNGO/NPOの人たちからいただいてきた大切なものがあります。それを若い世代の人たちにも味わってほしかったっていう気持ちもあって、非常に良かったなと思いました。

 

――今後の展望を聞かせてください。

自分が世の中を良くしてやろうとか、大きなことを考えているわけではなくて、日々周りの人と楽しく、ハッピーに前向きにやっていきたいなっていうことで動いているんだなあと、改めて思いますね。20年先の日本がどうなるとかってあんまり考えてなくて、いま来ている仕事をどう楽しくできるかと。

コマーシャルで10年、ソーシャルも10年になります。社会を学ぶために就職して、学ぶのは今後も続くんでしょうけど、今後は、もうちょっと自分から手を挙げて、学んだことを実践していこうかなと思います。クリエーティブの仕事って、時間があればぜんぶ企画を考えることに使って少しでもよくしたいという思いがあるんです。コピー1本書けばいいんだけど、その後ろで50本、100本、時間ギリギリまで考えている。そうやって20年やってきました。でも、僕も年齢的に、ときどきはみなさんを引っ張っていく側にならなきゃいけないと思ったりしております(笑)。そういう意味で、自分で自分の時間のマネジメントをもう少ししなきゃいけないと思っているところです。

 

籠島康治 電通ソーシャル・デザイン・エンジン クリエーティブ・ディレクター

1968年新潟県生まれ。クリエーティブ・ディレクター、コピーライターを務める。カンヌ入賞、アドフェスト入賞、TCC新人賞、ギャラクシー賞、GOOD DESIGN賞など、国内外の受賞歴そこそこ。2005年、NPO2025PROJECT( www.2025.jp)参加。現在、電通ソーシャル・デザイン・エンジンに所属。

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