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ゲストインタビュー#008 (後篇)

ゲストインタビュー#008(後篇)赤羽真紀子さん グローバル化のポイントは現地への権限委譲。

世界経済の原動力ともいわれるアジア地域ですが、一方で環境破壊や貧富の格差、人権や健康など、社会課題も満載です。日本企業によるアジアでのCSRへの取り組み、その問題点や問題解決の方向性を探ります。

アジアにおける社会課題

アジアにも多くの社会課題がありますが、特に重要なのが気候変動とサプライチェーン、そして賄賂と汚職の3つです。気候変動は地球規模の課題ですが、サプライチェーンに賄賂と汚職はアジアを特徴づける課題といえます。世界の工場であるアジアには多様なサプライチェーンがありますが、人権侵害をしているのではないか、環境破壊に加担しているのではないかといった問題がたくさんあります。

賄賂と汚職については、早くから法律や規制が整備された欧米ではほとんどなくなってきていると思いますが、アジアの場合には、商習慣と切り離せない部分や、あるいは給与水準が低いために賄賂やチップに生活収入を頼っているといった状況があります。実際のところ、インフレによる物価の上昇も激しいですから、その分を織り込み済みの賄賂で生活が回っていうようなところもあるようですね。

9月にバンコクで行われた「CSRアジア サミット2013」でも、「営業マンが営業先にモルジブへのペアチケットを渡すのが賄賂かどうか」といった事例が挙げられ、一部からは「そんなのふつうですよね」「そうですよね」といった意見も聞かれました。日本にもかつてお中元やお歳暮を贈る習慣がありましたから、ズワイガニを贈るようなこともあったと思うんですが、いまはズワイガニや松坂牛はおそらくはNGですよね。でも、クッキーくらいだったら許されるっていう感じはあるのではないでしょうか。現実的に商習慣と結びついているところもありますから、どこからが賄賂なのかという線引きは非常にむずかしいと思います。

タイは途上国?

たとえば、日本企業の海外進出先として中国に次いで人気の高いのがタイです。CSRアジアでも「タイで地域貢献活動をしたい」といったご相談をいただくことがありますが、多くの方々が「タイは貧しい人たちがたくさんいて困っている国」というイメージも持っていらっしゃいます。現地事務所に電話をして、「貧困層の子どもたちの支援、公衆衛生レベル向上の支援をやりたいという日本企業がある」と伝えると、現地からは「山岳部のほうならそういうニーズもあるかもしれないけど、タイはほとんど先進国だから、そういった活動ができるようなところはあんまりない」というような答えが返ってきます。

 タイはマレーシアやシンガポールとともに好調なASEAN経済をリードしている国ですが、そうした状況が日本には正しく伝わらず、何十年前かのイメージそのままで「タイは貧しい国だから貧困層を支援する活動が求められている」と考える日本企業が相変わらず多いのです。

タイに限らず、アジアの現状を知りたいのであれば現地に尋ねれば良い。日本も発展しましたが、その間アジアも発展しているのですから、いまの姿を理解してほしい。現地で活動したいのであれば、現地の意見を聞き、現地に任せたほうが早いですし、有意義なことができると思うのですが、多くの日本企業の意思決定ルートにはそういう仕組みが少ないという感じがしています

  • 発展するアジア(高層ビルが立ち並び、道路が整備され、きれいに手入れされた車が走る台北市)
  • 市民の台所の朝市(台北市)

現地のことは現地に任せる

これはCSRから離れてしまうかもしれませんが、日本企業の海外子会社や海外窓口には意思決定の権限が委譲されていないケースが非常に多いと感じています。権限が委譲されていなければ、本社にお伺いを立てなければいけませんから迅速な対応もできません。

日本企業の経営スタイルには、「意思決定は本社でやる。現地は指示に従って動けばいい」という印象があります。多くの場合、海外子会社や海外窓口のトップは日本から出向している方々です。事なきを得て日本に戻れればよりよいポジションが待っていますから、現地よりも日本の本社の顔色をうかがって、リスクの高いイノベーションを避けるようになってしまいますよね。

一方私自身の経験からいうと、外資系の企業は、「日本のことはあなたがいちばん分かっているのだから、意思決定はそっちでやりなさい」という感じで権限を委譲してくれます。「現地のことは現地に任せる」という経営スタイルが貫かれているのですね。

人材面にも悪い影響があります。子会社のトップには入れ代わり立ち代わりで日本から出向者が来るということになっていれば、「がんばってトップになろう」という人材は出てきません。そういうところで、自分の時間やエネルギーを費やして組織に尽くしたいと思うかというと、なかなかむずかしいでしょう。「優秀な人はやめたほうがいいよ」といった噂が広まれば、人材の確保もうまくいかなくなりますよね。

CSR関連の仕事で在外企業を訪ねる機会も多いのですが、CSRのいろいろな案件、サプライチェーンや人権、あるいは社内トレーニングなどいずれの側面をみても、権限を現地に移譲しない日本企業の姿が見えてきます。現地にしてみれば、信頼しているのであれば任せてくれるわけですから、「自分たちは信頼されていないのではないか」という気持ちが大きくなります。自分たちのほうが現地の事情は分かっているつもりですし、信頼されていると思えば良い判断をしようと努力しますが、信頼されていなければ、「9時から5時まで働いていればいいか」ということになってしまうでしょう。CSRにおける意思決定についても、予算や意思決定の権限をある程度委譲して現地でやってもらえば良いと思っているのですが、なかなか進まない。なにをするにしても、日本の本社に予算をもらわなければならない、予算がなくても出来るような活動でも、オペレーションを変えるのであれば本社に意見を聞かなければいけないというケースが多々あります。

それは実はCSRだけの問題ではありません。日本企業のグローバル化がうまくいかない理由のひとつは現地への権限移譲が進んでいないことにあるのではないかと思っています。

 

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