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ゲストインタビュー#008 (前篇)

ゲストインタビュー#008(前篇)赤羽真紀子さん CSRへの取り組みがリスクを減らし機会を増やす。

持続的な社会の発展に貢献するというCSRの考え方はあらゆる企業活動にとって不可欠なものとなっていますが、CSRの本質についての理解はまだまだ足りないようです。CSRアジア日本代表の赤羽さんにCSRの本質や取り組みの現状についてうかがいました。

寄付やボランティア活動だけがCSRではない

CSRというと一般には「企業の社会的責任」といわれますが、さまざまな考え方があります。たとえば、2010年11月には国際標準化機構(ISO)が定めたISO26000が発行され、企業などの組織が行う活動が社会や環境に及ぼす影響について等しく責任を持つことが求められています。ちなみに、ISO26000では企業などの組織が社会的責任を果たす7つの主題が掲げられています。中心となっているのが「7つの中核主題」というもので、その内容は、「組織統治、人権、労働慣行、環境、汚職防止、消費者課題、コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」です。

アジアでは、一般的には寄付金を出したり、ボランティア活動を行ったりすることがCSRのイメージになっています。実際のところ、地域の新聞や雑誌が「孤児のために寄付をした、学用品を届けた」「あの企業は何人ボランティアを送った」というかたちで大々的に取り上げることも多く、寄付やボランティアがイコールCSRとして認識されている側面があるのですね。

先進的な企業のなかには、CSR活動をコミュニティへの投資と位置づけ、貧困に苦しんでいたり、衛生的で安全な水へのアクセスがなかったり、病院に行くのに何日もかかるといった社会的な課題や地球規模の課題の解決を、自分たちの得意分野を生かして、本業に取り込むかたちで進めているところもあります。しかし、工場の従業員さんや一般の方々は「CSR=チャリティ活動」だと捉えていることが多いと思います。ですから、労働安全に気を付けよう、工場で環境対応しようといった活動がCSRにはなかなか結びつかないのです。

アジアでは、日本以上に「CSR=チャリティ活動」という理解が一般的です。企業によるチャリティ活動は古くから行われおり、たとえば、仏教国であるタイでは、企業がお寺に寄付をするのは一般的なことですし、インドでは、裕福な人たちが貧しい人びとに施しをすることは文化的な習慣になっています。また、フィリピンではキリスト教の信者が多く寄付文化が根付いています。そうした背景を考えれば、「CSR=チャリティ活動」というのは正しい理解とはいえませんが、私はそれでもよいのではないかと思っています。CSRについて一から一般向けに説明していくのは大変ですから、チャリティに対する理解をベースに「チャリティだけではなくて、コンプライアンスも環境対応も実はCSRなんです」という説明ができればよいのではないでしょうか。

  • ミャンマーの寺院(信者の寄進により金箔代がまかなわれる)
  • 中国深センにあるハンドバックの工場

日本におけるCSR元年は2003年

日本におけるCSR元年は2003年といわれていて、それ以前にはCSRという言葉は一般的にはあまり使われていなかったと思います。私自身、1999年くらいから企業の環境対応活動に携わるようになりましたが、当時を振り返ると、CSRという言葉は使っていませんでしたね。「環境対応や社会貢献をひとまとめにしてCSRというらしい」という感じになってきたのは2000年以降のことだったと思います。

きっかけは企業の不祥事といわれています。CSRにかかわる不祥事を起こした、あるいは不祥事への対処を誤った企業は、法律的な制裁にとどまらず、取引先や消費者から市場的・社会的制裁を受け、それは企業存続のリスクへ発展しうるという認識が広まり、環境対応だけが企業が社会的責任を果たす側面ではなく、ガバナンスや従業員が幸せに働ける労働環境なども重要だという考え方が定着していきました。

中国におけるCSR元年は2008年といわれていますが、そのきっかけは四川大地震です。8万人以上もの方々が亡くなりましたが、その際に中国の企業が寄付をしたり、ボランティアを派遣したりしたことからCSRが広まったと考えられています。

企業がCSRに取り組む意味とは

企業はこれまで社会的責務を果たすためにさまざまな取り組みを実践してきていますが、近年、CSRを自社の持続的発展を促すチャンスとして捉え、経営戦略にCSRの要素を積極的に取り込む企業が増えつつあります。その理由は、CSRに取り組むことを通じて、企業活動におけるリスクを減らし機会を増やすことが期待されるからです。リスクを減らすというのは、たとえば化学物質を垂れ流していれば、ブランドがダメージを受けるだけではなく、操業すらできなくなるかもしれません。あるいは法を犯した場合など、罰金を支払って法的には制裁を受けたとしても、市場や社会における企業のイメージが悪くなってしまうこともあり得るでしょう。

一方CSRに熱心に取り組んでいて、たとえば環境イメージがすごくいい、あるいは社会的責任を真剣に考えるような企業であれば、優秀な人材を確保できるかもしれませんし、企業に対する忠誠心を高め、離職率を低く抑えることができるかもしれません。

私がスターバックスでCSRにかかわっていた頃でさえ、若いお客様や店舗のアルバイトさんたちは、企業が社会的責任を果たすというと、「よくぞやってくれた」「自分たちもぜひかかわりたい」という感じで大歓迎してくれました。そうした傾向は近年ますます強くなって、特に若い人たちのあいだでは社会責任を積極的に果たしている企業の人気が非常に高まっています。その一方、新しい価値観をめぐる認識には、世代間などでもギャップがあるように感じています。

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