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ゲストインタビュー#007 (後篇)

ゲストインタビュー#007(前篇)渡辺大樹さん EKMATTRA(エクマットラ)顧問 バングラデシュの問題は、バングラデシュの人の手で。

バングラデシュでストリートチルドレンの支援・啓発活動を行うエクマットラ。念願の職業訓練施設が2014年に完成するが、その建設資金約3,000万円をいかに 調達したのか――子どもたちの未来を拓くかれらのエクマットラのチャレンジは まだまだ続く。

200万円が1時間後には2,400万円になった!

アカデミー建設に関しては、ダッチバングラ銀行さんから約2,400万円、融資ではなく寄附をいただきました。総工費が3,000万円くらいですから、8割に当たる金額です。もともとダッチバングラ銀行には、エクマットラをはじめて1周年のときプログラムのスポンサーになってほしいとお願いするために通ったんです。毎回毎回、30分もしくは1時間、長いときは3時間も待たされ、13回も会えないことがつづきました。

縁がないとあきらめていたのですが、あるときついでに寄ってみたら、アポもなかったのですが、ジェネラルマネージャーに会うことができました。活動について15分ほど説明したら、「同じ話を会長にしてくれ」っていわれ、会長に話をしたところ、その場で7万5,000タカのチェックを書いてくれたんです。

4年後に映画をつくることになって、再びお願いに行きました。ほんとは日本円で140万円くらい、全額を出してほしかったのですが、「オレが決済できるのは10万までだから」って10万円分のチェックをもらったんです。たった10万かって思ったんですけど、完成した映画を日本で上映したことなんかを報告したら、すごく評価してくれたんです。

その3年後、今度はアカデミーの設計図を持ってお願いに行ったんです。最初は1棟分、200万円くらい出してくれるという感じだったのですが、話をつづけていくうちにどんどん熱くなって、「ぜんぶでいくらかかるんだ?」と。「3,000万円くらい」と答えたら、「3,000万はかからないだろう。オレの見立てでは2000万ちょっとじゃないか。うちの技術者とミーティングして折り合いがついたら、全部出す」って、最初の200万円が1時間後には2,400万円になった(笑)。

3,000万円もかかる計画をつくりながら、工面できそうなお金は数百万しかなかったんです。最初は、1,000万くらいで収まるくらいの簡単な計画だったのですが、ボランティアで設計図を描いてくれたのがバングラデシュで3本の指に入る著名な建築家だったこともあり、どんどんふくらんでいきました。彼は「自分たちがしっかりした理念を持っていればお金は絶対についてくる」といっていましたが、実際にその通りになって、建設をはじめることができたのです。

子どもたちが成長し、自分たちが追い出されるのが理想

エクマットラでは、2011年の春からレストラン事業をはじめました。私自身が居酒屋や飲食に興味があったのと、ユナイテッド・ピープルの関根さんがバングラデシュに来たときに協力関係を結んでもらえるってことになったんです。レストランをはじめた理由は、やはり人前に出る商売だからです。子どもたちが私たちのレストランでいいサービスを提供して、お客さんが「あの従業員は元ストリートチルドレンなんだけど、あんなふうに変わるんだ」と思ってくれるようなことが啓発につながる。

将来的には、自分たちの農場を持つまでいかなくても、食肉と野菜ぐらいはオーガニックのものを使って、健康に対する啓発もできるプラットフォームとしても機能していきたいと考えています。

15年から20年くらいはかかると思いますが、バトンタッチするまではエクマットラをはじめた者としての責任がある。バトンタッチできたら、第二の人生は日本で居酒屋をやります(笑)。バングラつながりの仲間たちが集まって、「昔はね~」っていろんな話ができるような店を開きたいと思っています。

アカデミーができた後もいろいろな課題が山積み

いままで20数名の子どもたちに教育の機会を提供してきましたが、アカデミーが完成するとそれが一気に100人規模になります。規模が大きくなっても、これまでのやり方を崩すことなく、一人ひとりにしっかり目を向ける姿勢を貫いていくことが課題のひとつです。

いままでは、私たちがスタッフと直につながっていましたから意思の疎通もうまくいっていましたが、場所も規模も変わって、あいだにほかのスタッフが入ったとき、これまでのようにうまく意思を伝えられるかどうか。いままでは、勢いがある小さな団体だったわけですが、これからはきちんとした組織をつくっていかなければならない。理念がぶれることなく、末端まで同じ理念を共有できる組織をつくるには、スタッフ教育というか、スタッフとの連携が重要になると思っています。

他にも、アカデミーが完成すると月30万円から40万円だったランニングコストが70万円、80万円になるのをどう賄っていくのか。レストランの2店舗目、3店舗目を出店するなど、収益の構造をしっかりつくることも課題です。アカデミー内で、自分たちが食べるものは自分たちでつくることでランニングコストを下げていくといった取り組みも考えています。

また子どもたちも思春期になると、特に女の子は結婚の問題が出てきます。お母さんがセックスワーカーだったとか、いろいろな過去を持つ元ストリートチルドレンの彼女たちが結婚していくときに、自分たちが父親・母親代わりとして身分を保証するなどして、きちんとしたかたちで結婚させられるようにしなければいけない。まだ経験していないことですが、ゆくゆくは課題として出てくると思っています。

就職に関しても課題があります。いくつかの企業から、「いい人材が育ったら受け入れるよ」といわれていますが、実際に就職するとなると、たとえばカメラマンなら、最初は下積みでカメラの機材運びが延々とつづいたりしますよね。私たちも、あまり夢を見させ過ぎないようにしていますが、やはり夢と現実のあいだにはギャップがありますから、進路相談をしていくなかで、失望しないように導くのも大事だと思っています。

規模の拡大よりも手本となるモデルづくりが大切だと思う

エクマットラについては、規模を大きくすることはあまり重要視していません。数を増やしていくのではなく、「あの兄ちゃんは自分と同じような境遇だったけれども、意欲を持ってチャンスをつかんだ。オレにもできる」っていう前例、モデルをつくっていくことが非常に大きい。学生たちには、私たちの活動や仕組みをまねしてほしい。私たちはダッカで活動していますが、たとえば200キロ離れたジョソールという町にはなんのツテもありません。そんなジョソールの若者たちが私たちの仕組みを学んで、同じような活動を広めてほしいと考えています。

もうひとつ、私はなるべく陰の存在でありたい。日本から来たということでストーリーにしやすいのか、メディアが私にフォーカスを当ててくることも多いんです。あるとき、バングラデシュでもっとも発行部数が多い新聞から取材の依頼があり、最初は私の結婚と家族がテーマみたいだったのが、なぜか、新聞に折り込まれた雑誌で何ページもの私とエクマットラの特集になっていて、「あ~、やっちまった」って凍りついたんです。

そういうことがあると、いままでやってきた「バングラデシュ人で」というコンセプトとか、築き上げてきた信頼というか、モチベーションが非常に下がり、その出来事ひとつでエクマットラは崩壊の危機に瀕してしまうこともある。私がいることで「日本のNGOね」と捉えられるのなら、私はいなくなったほうがいいと正直すごく思いました。「自分が抜けたほうがこの国のためになるんだったらやめる」といって、仲間たちと議論もしました。結局、いままで通り自分たちでメディアに対する露出を管理しながら、一方では、既存のメディアに頼らずに自分たちの映像事業を通じて思いを伝えていこうと再び一致団結してやることになったんですけど。

日本は、押しつけではない国際協力ができる国

バングラデシュは途上国のモデルになるべきですし、それができる国だと思います。先進国主導で開発が行われ、先進国が望むようなかたちの発展をめざすのではなく、自分たちの文化、歴史、哲学、自分たちが誇れるものをしっかり学んで、それを基に自分たちのめざす方向を自分たちで決めていく。途上国といわれる国々のリーダーとなり、先進国主導でなくても立派な国になる。私たちも微力ながらそのお手伝いをしたいと思います。

日本に関しては、同じように自分の国の誇り、自分の国のすばらしい部分をきちんと学んで、誇りを持って世界の人たちに相対するための教育が絶対に不可欠だと思いますし、自分の国のルーツをしっかりと持ちながら世界の人たちと渡り合っていくような熱い日本人にどんどん出てきてほしいと思いますね。

日本人には相手を尊重する国民性がありますから、世界で尊敬される100人のなかに日本人が30人くらいいてもいいと本気で思ってます。そういうプレゼンスの高め方をしていけばいいなあと。バングラデシュは大の親日国ですし、欧米人に比べて日本人は現地のことを理解しようとしてくれる、現地の生活に入ろうとしてくれると評価されています。言葉しかり、文化しかり、日本は押しつけじゃない国際協力ができる数少ない国です。そういった意味で、日本のプレゼンスが高まってほしいですね。

いま、私も含め日本人は自由に世界の国々に行くことができますし、親日国も多いです。それは、親の世代あるいは祖父の世代の人びとが、日本は尊敬すべき国だっていうイメージをつくってくれたからであって、正直、私たちの世代はその貯金で生きているだけであって、まだ何もしていないんじゃないかと思います。ですから自分も、自分たちの世代も、また新たに子ども世代に残せるように日本のプレゼンスを高めていきたいと思っています。

 

プロフィール

渡辺大樹(わたなべ・ひろき)

1980年生まれ、横浜市出身。金沢大学文学部卒。大学時代はヨット部に所属。ヨットの国際大会のときにタイのプーケットでスラムの子どもを見て衝撃を受ける。帰国後、1年間バイトで貯めたお金を持って世界最貧国のひとつバングラデシュへ。2004年、ダッカ大学の仲間らとともにエクマットラを共同創設。「バングラデシュの問題は、バングラデシュの人の手で解決するべき」というコンセプトのもと、ストリートチルドレンの支援や社会問題の啓発活動を展開している。2014年には160名規模の職業訓練施設となるアカデミーが完成する予定。2010年には、青年版国民栄誉賞といわれる「人間力大賞グランプリ・内閣総理大臣奨励賞・外務大臣奨励賞」を受賞している。

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