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ゲストインタビュー#007 (後篇)

ゲストインタビュー#007(前篇)渡辺大樹さん EKMATTRA(エクマットラ)顧問 ストリートチルドレンの衝撃、飛び込んだバングラデシュ。

貧しい人も、裕福な人も、みんなが共有できる「1本の線」があってもいいんじゃないか。――バングラデシュでストリートチルドレンの支援と社会問題の啓発を行う渡辺大樹 さんに、活動をはじめたきっかけとこれまでの苦労、そして将来の夢をうかがいました。

エクマットラの由来――マットラの上と下

 「エクマットラ」の「エク」っていうのはベンガル語で「1」という意味です。「マットラ」にはいろいろな意味があるのですが、ひとつがベンガル語の文字の上に書かれている1本の線なんです。「マットラ」の下に、いろいろな発音のいろいろな文字があるけど、それは人間も一緒だと。いろいろな立場、いろいろな価値観、いろいろな宗教の、いろいろな人たちがいるなかで、社会にひとつ、みんなが共有できる「1本の線」があってもいいんじゃないか。大きな格差があるけれども、自分の国の問題を自分の問題として捉えて、裕福な層がコミットしてやっていく――そういう意識の一本化もしていこうということで、「エクマットラ」という名前を付けました。

「エクマットラ」という名前を付けた瞬間、2つの活動も決まりました。ひとつは、「マットラ」の下にいる貧困層の人たちをエンパワーしていくこと。具体的には、教育や働く機会を提供していくなかで、子どもたちの生活を押し上げていくこと。もうひとつが、「マットラ」の上にいる裕福な人たちに対して、「社会の現実を見て、貧困層をエンパワーしていく活動に協力するべきだ」と啓発していくこと。どちらも重要な活動で、エクマットラは、ストリートチルドレンに対する支援活動だけではなく、映像を通じた啓発も二本柱として大事にしています。

エクマットラのホームページ(http://www.ekmattra.org/JAP/

青空教室からシェルターホームまで

エクマットラではまず青空教室をはじめましたが、当初は母親たちの賛同が得られませんでした。ちょうど、国境を越えた人身売買が問題になっていたときで、私も外国人でしたから、疑いの目で見られたんですね。

最初は、セックスワーカーの仕事のなかで生まれた子どもに焦点を絞ってやっていましたが、「あなたの子どもに教育を提供したい、青空教室をやりたい」といっても疑われてしまう。ベンガル語は一応できるようになっていましたが、バングラに来てまだ8か月くらいですからストレートな会話しかできない。母親たちに「毎日いくらぐらい稼いでるんですか?」みたいなことをズバッと聞いちゃうから、「そんなことしない!」って怒っちゃうんです。

母親やその元締めたちやら、たくさんの人に囲まれてリンチされそうになったり、「二度と来るな」「来たら命はないと思え」って、けっこう怖かったですね。夕暮れどき、ろうそくの灯りのなかで50人くらいの人たちがどんどん近づいてきて、「すいませんでした。もう二度と来ません」って謝って帰るんですけど、また次の日の同じ時間に、「すいません、来ちゃいました」って(笑)。それを1か月くらいつづけて、毎日毎日通いつめることで、相手に理解してもらえるようになり、ようやくお母さんが賛同してくれて青空教室をはじめることができました。

仲間も私も教育学や児童心理学を学んでいるわけではないので、見よう見まねで試行錯誤しながらやりました。ベンガル語の「あいうえお」を教えてみたり、「1+1=2」を教えてみたり。でも、子どもたちはまったく興味を示してくれない。そこで、歌や踊り、朗読やお絵描き、劇といった要素を取り入れ、子どもたちの興味を引きつけていきました。いまでは、そういう経験にもとづいたカリキュラムというか、エクマットラ独自の教え方を持っています。

バングラデシュでは教育の仕組みがまだ確立されていません。学校は宿題を出して回収する場なので、塾に通ったり、家庭教師をつけないと勉強についていけないのです。日本でもあると思いますが、それが非常に問題で、経済的格差がそのまま教育の格差になってしまっているんです。

私たちのところでも、最低10年生もしくは高校卒業にあたる12年生まで勉強をつづけることを卒業認定の条件にして、ドロップアウトしないように、家庭教師をつけることもあります。

青空教室をはじめて数か月後には、子どもたちが寝泊まりしながら地域の学校に通えるシェルターホームを開きました。最初は6人の子どもが入所して、その後少しずつ増えていきましたが、なかには逃げてしまう子どももいます。増えたり減ったりで、いまは30人くらいが生活しています。いちばん大きい子が17歳で10年生、日本でいえば高校1年生で、いちばん小さい子は6歳で今度1年生に上がります。

父からもらった「我が人生に意義ありと謝す」

最初、両親からは「おまえ何やってるんだ?」「ひとりで行って、現地の人に迷惑じゃないのか?」という感じで見られていました。でも、青空教室をはじめて4か月後くらいに両親がバングラデシュに来てくれて、子どもたちに大歓迎を受けたり、仲間たちが温かく迎えてくれたりするのに触れてくれたことで、「こいつにも居場所があって、やるべきことも定まってきたんだな」と感じてくれたらしく、それからは何もいわれなくなりました。

父親から「日本に帰る飛行機のなかで短歌をつくった」ってメールが届いて、「ストリートチルドレンを胸に抱きたる我が息子 我が人生意義ありと謝す」とありました。そのときはほんとにうれしかったですね。正直、日本を出るときには、バングラデシュにコミットすればするほど、親のサポートはできなくなる。親の介護をするとか、生活の面倒をみるとかっていうことがむずかしくなってしまうだろうなと思いながら出てきたんです。親が自分の活動の意義を感じてくれ、「息子をこの世に生んでよかったな」って思ってくれる。そういう間接的な親孝行しかできないだろうって思っていたから、父親が「自分の人生に意義があった」と思ってくれたことに、ほんとドーン!ときました(笑)。それからは「お前いつ帰ってくるんだ」とかいわれなくなりました。逆に、「好きにやれ。その代わり、子どもの命を預かってるんだから責任もってやれ」と励まされます。両親にはすごく感謝です。

プロフィール

渡辺大樹(わたなべ・ひろき)

1980年生まれ、横浜市出身。金沢大学文学部卒。大学時代はヨット部に所属。ヨットの国際大会のときにタイのプーケットでスラムの子どもを見て衝撃を受ける。帰国後、1年間バイトで貯めたお金を持って世界最貧国のひとつバングラデシュへ。2004年、ダッカ大学の仲間らとともにエクマットラを共同創設。「バングラデシュの問題は、バングラデシュの人の手で解決するべき」というコンセプトのもと、ストリートチルドレンの支援や社会問題の啓発活動を展開している。2014年には160名規模の職業訓練施設となるアカデミーが完成する予定。2010年には、青年版国民栄誉賞といわれる「人間力大賞グランプリ・内閣総理大臣奨励賞・外務大臣奨励賞」を受賞している。

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