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ゲストインタビュー #004 前篇)

ゲストインタビュー#005(前篇)
橋本淳司さん ジャーナリスト/アクアスフィア代表 水のどんな話を、どうやって伝えるのか。

日本から世界へ。そしてまた日本へ。内外の水問題を取材し、学校での体験型授業や講演、出版などを通じて持続的な水利用のあり方を訴える橋本淳司さん。水との出会い、いま注目する水の問題、これからの社会のイメージについておうかがいしました。

水は循環している。その意識が伝わっていない

もともと水があったのに気候変動で水がなくなってしまった地域も取材しました。アメリカのシエラネバダ山脈のあたりでは、雪解け水で農業をやっていたのに雪が降らなくなってしまったんです。雨というのは、たくさん降っても、すぐに流れていってしまいますから利用がむずかしい。雪や氷というのは水をゆっくり流してくれる装置で、地下からゆっくりと湧き出すので農業用にも使える。でも、温暖化によって氷が張らなくなったり、雪が雨になってしまうと、農業生産に支障を来すようになってしまいます。

そういう取材をしていたのが30歳くらいの頃のことでしたが、その頃に『水のおもしろふしぎ雑学』(1997年)という著作を出版しました。それがきっかけで、「学校で水の話をしてくれないか」と声を掛けていただくようになったのですね。でも当時は水の問題が取り上げられることもありませんでしたから、「水のジャーナリストです」といっても、「なんのこと?」と。水といっても「夜の水」の世界を連想する人が多くて、銀座やススキノのことをきかれたりしたこともありました(笑)。相手は主に小学校の高学年とか中学生で、ときには大人向けもありましたが、「世界ではこういう水の問題が起きています」といっても、まったくダメ、伝わらない。僕自身、「なんかいい話」「かわいそうな人たちがいるね」と受け取られるのはすごく嫌で……。で、「どうしたらいいんだろう?」「我がこととして考えられるように伝えなきゃ」と、いろいろ試行錯誤をしていました。

実際のところ、水の量に関しては伝わりにくい問題が多く、降水量の多い地域と少ない地域では明らかに違います。その頃の僕は、「水は不足してる」と捉えていたのですが、正しくは「水は偏在している」のです。つまり、あるところにはあるし、ないところはない。そのあたりの事実をきちんと伝えたほうがいい。もうひとつ、子どもたちの教科書をみると、「水は循環している」ことが欠落しているのに気づいたんです。小学4年生で水道のこと、5年生で川のこと、6年生で温暖化を勉強しますが、一つひとつが点なんです。自分たちが使っている水の話と下水の話、川から海の話、それから温暖化と。点々では勉強しているのですが、水の循環というか水の移動がない。だから、自分の使っている水がどこからやってきて、どこへ流れていくのかを考えてもらうようにしなければいけないと思いました。

水の循環というテーマであれば、日本のなかの小さな循環もありますし、地球規模の大きな循環もありますし、水のない地域にもそれなりの循環があります、また、ある地域で食料を育ててその食料を輸入するとか、自然の循環のほかにも、人工的な循環があります。そのあたりのことに気づいてもらえれば、いい社会を考えることにつながるかもしれないと思ったのですね。

子どもたちに、水について、一貫して学ばせたい

地域のなかで水の循環を保ったり、回復させたりすることは、実はちょっとした工夫でできます。水の循環を身近で捉えるために、子どもたちといっしょに1日50Lの水で生活するという体験合宿をやりました。まず、1日50Lということで、2L入りのペットボトルを25本見せます。「50Lの水で暮らせる人はいるかな?」と聞くと、「はーい」ってみんな手をあげます。2Lのペットボトルが25本並んでいると、相当な量に見えるんですよね。そんなことを夜のうちにやって、「明日の朝6時からはじめよう。それまでは水を使わずに集合!」と伝えておきます。

翌朝、集合した子どもたちに、25本のペットボトルの絵が描いてあるカードを持たせて、使ったペットボトルは黒く塗ることにします。集合した時点で、もうトイレに行っちゃった子、すでに顔を洗っちゃった子がいるわけです(笑)。そこで、「トイレに行った子は10L使ってるから、5本黒く塗って」と。それから、水道の蛇口を開けると1分間におよそ12Lの水が出るので、「顔を洗っちゃった人も5本塗って」ということにします。そうすると、みんな「もうこんなに使ってる!」「50Lヤバイかも」となるわけです(笑)。そこではじめて、これから1日、残りの水をどのように使おうかと考えるんですね。

子どもたちはみんなお風呂にこだわっていて、「風呂に入れないかもしれないよ」というと、「絶対イヤだ!」といいます。シャワーも蛇口と同じで1分間におよそ12L出るから、2分間浴びたければ夜までに24L残さなきゃいけない。朝の時点で10L使った子もいるわけですけど、そういうなかで、自分たちで計算しながら1日水を使ってみるということをやってもらうんです。夜になると、飲み水のほかに炊事にも水を使うから、当然シャワーを浴びる量は残らない。30人くらいの合宿で、全員合わせて残りが10Lくらいとかです。

「じゃ、その10Lの水を沸かして、みんなで身体をふいて今日は寝よう」というとブーイングの嵐(笑)。その後、「みんなお昼にご飯を残したよね。実は、ご飯やお肉をつくるのにお水がいっぱい使われているから、みんなはたくさん水を残したんだよ」っていいます。すると、みんな恨めしい目で僕をみながら、「うん」と納得する(笑)。そんなことをしながら、水を使う疑似体験をしてもらいました。こういう体験合宿は2000年くらいからはじめました。当時、いわゆるゆとり教育が広がり総合的学習の時間がはじまった頃です。そこでいろいろと学んだことが、Think the Earthの「みずのがっこう」とか、「みずのほし みずのはなし」(水がテーマの授業や講演)のベースになっています。

本当は、小学1年生から高校1年までという10年くらいのあいだで、ひととおりの水の教育、水のリテラシーを一貫して学べるといいと思います。週に1回じゃなくても、月に1回で連続2時間とか、夏に4時間連続とかでもいい。いまは小学4年で浄水場に社会科見学に行き、中学1年の理科で川の流れを学び、中学2年で水の循環を学ぶことになっています。学年ごとにバラバラではなくて、1本の筋で水の循環を学べるプログラムがあればより効果的だろうと思っています。

海外には、地域の水について考えるプログラムがあります。たとえば、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンで、国を超えて、子どもたちを対象に水環境教育をやっている団体があることを知り、感動しました。次世代へ水資源を残そうと、政治を超えて、ヨルダン川をいっしょに守る活動をしています。具体的には、GPSのついたスマートフォンを持ちながら、子どもたちに水環境の悪くなっている場所をチェックさせ、Geographical information systemにマッピングしていって、それを首長などに報告するのだそうです。とても理性的な活動だと思いました。

いまのところ、世界共通の「ものさし」がないんです。でも、水の循環をひとつの軸にすれば、たとえば水問題が深刻化しているイスラエルとヨルダンで共通の教科書が持てると思います。いま、幼児期から10歳くらいまでの子どもたちに、持続的な水利用に関する共通認識を持たせようというプログラムを世界規模で考えようとしていますが。それができると、日本の学習指導要領にも影響が及ぶかもしれません。日本の水事情は特殊で、日本の標準が世界の標準ではない。水利用の共通認識があれば、「世界の標準はこうで、日本ではこんな問題が起こっている」と教えることができるようになると思います。

プロフィール

橋本淳司

1967年、群馬県館林市生まれ。学習院大学卒業後、出版社勤務を経て現職。国内外の水問題とその解決方法を取材し、新聞・雑誌・インターネット・書籍などで発信、政策提言などを行っている。また、子どもたちや一般市民を対象とした水の講演活動も行っている。NPO法人地域水道支援センター理事、東京学芸大学客員准教授、参議院第一特別調査室調査員(水問題担当)。主な著書に『67億人の水 争奪から持続可能へ』(日本経済新聞出版社) 、『水は誰のものか 水循環をとりまく自治体の課題』(イマジン出版)、『世界と日本の水問題』(文研出版)/『「放射能汚染水」「水不足」「水道停止」安全な水はどう確保する?』(主婦の友社)などがある。

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